[RIDE THE LIGHTNING] Chapter06

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 忍び込む二人を、屋敷の屋根の上から眺める白髪の男がいた。
 男は、ポケットから通信端末を取り出してダイヤルする。

『はい、こちら陸軍――』

「もしもし」

 男は相手の言を遮るようにして言った。

『あ、はい』

「隣人の家に盗人が入り込んだようだ」

『……ん? あー、はいはい。ね。えと、所在地をうかがっても?』

 アレーテイア・クライシスによる暴動と人員の流出によって、旧来の警察機構は破壊され、その治安維持機能は陸軍に集約された。しかし、だからといって軍のキャパがその役割に見合うだけ拡充されたわけではないので、現在陸軍は、殺人を含む小規模な犯罪の処理は各地に乱立した自治組織、市民キャンプに任せ(つまりは放棄し)、大規模な暴動や重大なテロ行為にのみ対応するというスタンスをとっている。
 ゆえに電話係のかったるそうな応対は、ごく自然な反応であったと言える。

 しかし、男が住所を言うと、
『分かった。すぐにそっちに人を送る。アンタ、名前は?』
 と、やけに気合の入った声が返ってきた。

 無理もない。
 この屋敷の家主は軍のスポンサーで、警護対象だ。
 もっとも、そんな彼もまた例に漏れずAletheiaの虜にされており、投資額も過去の契約に従って、コンピュータで自動的に更新されているに過ぎないので、その身になにが起ころうとも、軍は事実を秘匿することさえすれば一切の損害を回避できるのだが……それは陸軍組織全体の話であって、ことを仕損じた電話係の下っ端についてはその限りではないだろう。

『規則なんだよ。通報者の身元を確認しろってのが――』

「ジョーイ」

『……それだけ? ミドルネームは? ファミリーネームは?』

「……マルムスティーン」

『ナニッ!?』

「聞こえなかったか? ジョーイ・マルムスティーン」

 それは、誰もが知る名前であった。
 Aletheiaを開発者であり、バイソン社と並んで、アレーテイア・クライシスの首謀者とも目されるその男は、今なお社会的制裁を受けることなく、他国への亡命とAletheiaに関する技術提供を繰り返し、類似品の普及に加担しているとされる。

『いいか? 絶対にそこを動くんじゃないぞ! 絶対にだ!』

「ああ」

『ハハッ。そうだ、お迎えがそっちに着くまで俺がお前の話し相手になってやるよ。さて、なにから話そうか……ああ、そうだ。あれは俺がまだ――』

 男は、通話を終了した。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月18日 09:57 p.m. -6〕

「動くなと言われて、動かない馬鹿がいるとでも?」

 忍び込む二人を、屋敷の屋根の上から眺める白髪の男がいた。
 男は、ポケットから通信端末を取り出してダイヤルする。

『はい、こちら陸軍――』

「もしもし」

 男は相手の言を遮るようにして言った。

『あ、はい』

「隣人の家に盗人が入り込んだようだ」

『……ん? あー、はいはい。ね。えと、所在地をうかがっても?』

 男が住所を言うと、
『分かった。すぐにそっちに人を送る。アンタ、名前は?』
 と、やけに気合の入った声が返ってきた。

『規則なんだよ。通報者の身元を確認しろってのが――』

「ジョーイ」

『……それだけ? ミドルネームは? ファミリーネームは?』

「……マルムスティーン」

『ナニッ!?』

「聞こえなかったか? ジョーイ・マルムスティーン」

『いいか? 絶対にそこを動くんじゃないぞ! 絶対にだ!』

「ああ」

『ハハッ。そうだ、お迎えがそっちに着くまで俺がお前の話し相手になってやるよ。さて、なにから話そうか……ああ、そうだ。あれは俺がまだ――』

 男は、通話を終了した。

「動くなと言われて、動かない馬鹿がいるとでも?」

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