[RIDE THE LIGHTNING] Chapter18

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 アーノルドは、基地を出てすぐのところに構えた自宅の前まで来ると、ポストの奥に手を突っ込んで念入りに確認した。
 見上げると、家の灯りが消えている。
 いるのは息子のジョン一人。
 もう寝ていてもおかしくない時間だ。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月20日 10:36 p.m. -6〕

 深い溜息をつき、玄関までトボトボと歩く。

 玄関の前でポケットをまさぐり、鍵を取り出す。
 鍵穴に鍵を――

 と、ドアが独りでに開く。
 アーノルドは咄嗟に後ずさる。
 ドアを開けたのは――ジョンだった。

「ただいま、ジョン」

 アーノルドは強張った肩の力を抜き、ジョンに微笑みかける。
 細めた目の向こうに映る幼い顔は真剣な表情をしていた。

「パパ」

「ん、どうした?」

 アーノルドはわざとらしく目をぱちくりさせる。

「ママは?」

 アーノルドは硬直した。
 少しして、アーノルドはしゃがんで息子と目の高さを合わせると、ジッとその水晶玉のような目を見つめて言う。

「あのな、ジョン。ママはもういないんだ」

「死んだの?」

「……そうだ。ママは、死んだ」

 アーノルドはジョンの肩にそっと手を乗せた。
 ジョンはそれを払いのける。

「嘘だ! だったらどうしてお葬式をしないの!」

 アーノルドは、ジョンに弾かれた自らの手を見つめたまま、

「地雷を踏んでドッカンだ。遺体が残っていない。前にも言ったろう」

 と言う。
 ジョンは一層眉にしわを寄せて言う。

「遺体がなくても、葬儀はある!」

 アーノルドは目を見開いて少年の顔を見た。

「なっ……どこで聞いた」

「調べた」

「そうか……なあジョン。もしも、もしもママが、俺たちの知るママじゃなくなっていたとしても、会いたいか?」

「それはママなの? それとも、違う人?」

「そいつは……お前を産んで、俺達と三人で十月前まで一緒に暮らしていた人だ」

「だったらそれはママだよ!」

「会いたいか?」

「もちろん!」

 アーノルドは俯いて、

「そうか……分かった。今度、ママに会いに行こう」

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