[RIDE THE LIGHTNING] Chapter19

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「あぁ、ガリア様! 先日はとんだご無礼を!」

「うっひょー! たまげたなぁ……アンタ、本当に神様みてぇだ!」

「ばーか。このお方はマジもんの神様だよ」

「いいえ。ガリア様は神ではないわ」

「ほれみろぉ」

「ぐぬぬ……」

 目の前に積まれた札束の山にスラムの人々は狂喜乱舞する。しかし、

『ハッハッハ、喜んでもらえてなによりだ。しかしこれだけの金、もう時期価値がなくなる』

 RIDE THE LIGHTNINGのその言葉で、場は一斉に静まり返った。

〔アイオワ州シーダー・ラピッズ グレゴリオ暦2061年9月21日 16:22 p.m. -6〕

「なん……だと⁉」と、ダグラス。

 RIDE THE LIGHTNINGは言う。

『お前たちとて、どこかの地主と取引しているのだろう?』

 アレーテイア・クライシス直後、溢れかえった失業者達は暴動を起こした。
 都市機能をこれでもかと破壊すると、ようやく国家に頼ることの愚かしさに気づき、自給自足を目指した。

 だが、俗人には欲というものがある。
 彼らは自分たちが生き延びるのに最低限の畑だけを確保すればいいものを、さらなる利権を欲して略奪を繰り返し、あまつさえ、同胞を手にかけるようになった。
 略奪の繰り返しの中で、次第に、徒党を組んだ者達が台頭するようになると、彼らは畑を持たぬ者との食物の取引によって利益を得ようと考えた。
 それが今日における地主と呼ばれる存在である。

「そ、そうだ。俺たちは、ハルフォードんとこからジャガイモを……まさか!」

「馬鹿な! あそこは根菜の取り扱いしかないが、腕っぷしだけだけは確かなんだ。なんたって、州警察を丸ごと囲い込んでるんだからな」

「他所の勢力が拡大してるとでも?」

『謀反ということだってある』RIDE THE LIGHTNINGは言った。

「ハルフォードにはいざというとき縄張りの畑と心中する用意がある。イカれてるが、だからこそそういうリスクとは無縁だって、そう高をくくって契約してたんだが……くそ、なんだってそんなバカなことを! バカはどいつだ!」

『私怨というやつだ』と、RIDE THE LIGHTNING。

「馬鹿じゃないの⁉」フランチェスカは声を荒らげる。

「そんな……おしまいだ……」狼狽するシンディ。

 ダグラスが切り出す。

「な、なあアンタ。ふてぶてしい言い分なのは分かっているつもりだが……なんとかしちゃあくれんのか?」

「いいや、恐ろしいことを言ってくれおって。もしもそれが本当なら、この老婆の心臓を労わらん貴様のような不埒な輩には、わしらの安全保障をしてもらわにゃあ話にならん。たとえ我が身――」

 RIDE THE LIGHTNINGに詰め寄るシンディ―をダグラスとフランチェスカが慌てて静止する。

「バッ! なんてことを言ってくれちゃって! よしなさいよ!」と、ダグラス。

「そうよ! 恥を知りなさい!」と、フランチェスカ。

「ドカドカ言っとる場合か!」シンディ―は怒鳴る。と、

『しかし、私はガリアなのだろう?』

 RIDE THE LIGHTNINGは言った。

「すると、お救いくださるのですか? 何故?」フランチェスカは不思議そうに尋ねる。

「当然だろう。責任はとらんとで、そもそも神様なのだから」シンディーが言う。

「だから神様じゃねぇって……しかし、何とかしてくれるのか?」ダグラスが呟く。

『言っただろう。私は融通が利く。それに刺激的だ』

 RIDE THE LIGHTNINGはダグラスの方を向いて言った。
 フランチェスカが再び尋ねる。

「わかりません。私たちにここまでよくしてくれることのどこが刺激的なのでしょう」

「なにを言っとるか。それで、どうする?」

 シンディ―の問いに、RIDE THE LIGHTNINGは答える。

『要は畑と、食料と、安全があればいいのだろう。私は争いで人が死に絶え、畑がそのままになっている土地を把握している。そこに冬を越せるだけの十分な食料とともにお前たちを連れて行ってやることは可能だ』

「エグゾダス、というわけか」

「しかしどうするんだ? テレポートか? それとも、アンタがデカくなって背中に乗せてくれるのか?」

 ダグラスが尋ねる。
 RIDE THE LIGHTNINGは言う。

『いや、私は飛行機を盗むつもりでいる』

「地味だな」

「地味なもんか。私の心臓を置いていく気か!」喚くシンディー。

『安全なフライトを約束しよう』と、RIDE THE LIGHTNING。

「そういう問題ではない」シンディーは言う。

「いいじゃないの、空の旅。ビーフオアフィッシュがポテトオアポテトなのがちょっとアレだが」

「呑気を言っちゃって。飛行機なんて盗んだら、軍が黙っちゃいないだろうに」

「撃ち落されるってのか? まさか。弾の無駄でしょうが」

「それもそうか」

『軍にしてみれば黙っていれば済むものを、事を荒立てればかえって無能を露呈させることになるわけだからな。飛行機を返却するつもりを言っておいて、飛んでしまえばこっちのモンだ』

「そうは言ってもどうするんだ? ここにいる全員を輸送しようと思えば大型旅客機でもないと厳しいだろ。だが小型機なんかはともかく、旅客機の飛行場なんかは大抵どこも軍の管理下だ。どうやって侵入する。ハイキングか?」

 RIDE THE LIGHTNINGは言う。

『スパーキングサンシャインを使う』

 すると、シンディーが笑った。

「はっはっは、喜べフラン。スパンキングショーシャインが拝めるってよ……って、ありゃ?」

 シンディーは辺りを見渡すが、フランチェスカの姿はない。

「いないな……便所か?」

 ダグラスがそう口するや否や、シンディ―はダグラスの頭を思い切りはたく。

「イタッ! な、なにさ!」

「便所言うな」と、シンディ―。

「あ、サーセン……それで、いつ行くんだ?」

『明日にしよう』RIDE THE LIGHTNINGが言った。

 どよめく群衆。

「なにぃ?」

『明日にすると言っている』

「おいおい、そりゃちと早すぎやしないか」

『私からすれば遅すぎるくらいだ』

「せっかちかアンタは」

「なにがそんなにアンタを急かす」

『軍は私を警戒している。フライトの延期は彼らに知恵を与えるだろう』

「そらそうだろうが……それもその、スパークルなんたらでどうにかならんのか?」

『ならん』

「そうか……分かった」

『支度はできるか?』

「なんとかな。それに、こんなしみったれた土地で骨を埋める気はねぇ。よし、聞いてたかお前ら!」

 スラムの住人たちは皆顔を見合わせ、そして、一様に頷いた。
 奇妙なことに、以降、その場にいた者たちの中で、RIDE THE LIGHTNINGの言を疑うものは誰一人として現れなかった。

「決まりだな。頼むぜ、大将」

わかる・・・

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