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〔コロラド州デンバー グレゴリオ暦2061年9月24日 9:41 p.m. -4〕
灯りのない廃墟のリビングルームに集められた十数名の少女たちは、皆一様にサラサラとした黄金色の長い髪をしており、白のワンピース服を着せられ、立たされていた。
怯えて寄り集まる彼女らを、マイケは、床に座して見定めるように眺めていた。
RIDE THE LIGHTNINGは、マシーンの身体で立ち尽くし、マイケを見つめていた。
『マイケ、私は――』
RIDE THE LIGHTNINGがなにかを言いかけたところで、それを遮るようにしてマイケが語りだした。
その口調は、穏やかだった。
「アンドレイが死んだとき、スラムには、年頃の男はアイツしかいなかったから、俺の、女としての価値が毀損されたように感じられて、それがなにより不愉快だった」
マイケは、そう言うと視線をRIDE THE LIGHTNINGの方に向け、優しく微笑みかけた。
「フランチェスカが死んだときは……その……」
マイケは言いよどみ、RIDE THE LIGHTNINGから目を逸らす。
そして、顔を赤らめて続ける。
「フランチェスカは、か、可愛かったから、それを、あんな汚らしい雄に滅茶苦茶にされたのが許せなくって、だから、アイツを辱めてやったんだ」
マイケは、フフッと思い出し笑いをした。
「スラムのみんなが死んだとき、これから俺の暮らしはどうなるんだって思ったけど、お前の力があればどうとでもなると思ったら、胸のあたりのソワソワする感覚がスゥっと退いて、本当に、どうでもよくなったんだ」
『マイケ……』
「けど、そういう感じ方は間違ってるって、俺、分かるんだ。けど、これは強がりでもなんでもなく、どうしようもなく俺の本当の心なんだ。だから……」
そう言って、マイケは再びRIDE THE LIGHTNINGの頭部を見つめた。
マイケの顔には、なんの感情も現れていないようだった。
言ってしまえばそれは真顔というものだったのだが、相手に自身の無感動や無関心を伝える意図のようなものを一切伴わない、真の意味で何でもない表情であった。
「かように醜い雌餓鬼を生み出しながら、のうのうとのさばっている人類は、辱められねばならない」
マイケは、RIDE THE LIGHTNINGに優しく笑んだ。
「お前が、人類を進化させるマシーンだと知ったとき、俺、馬鹿じゃないかと思ったんだ。だって、そんなことできる力があるなら、人類でも地球でも、一思いに消し去ってしまった方がサッパリするじゃないか。だから俺、お前に世界を滅ぼす手伝いをさせたくてお前と一つになったんだ。利用するって言ったのはそういうことだよ……けど、思ったんだ。もしこの文明を抹消して、それが人類最後の文明になったら――宇宙人とか、やがてこの地球に再び生まれる知的生命体とか、お前とか、神様とか、なんでもいいけれど、そういうやつらから見て、この文明は失われてしまったものになってしまう。つまり、その、確か日本の言葉で”MOTTAINAI”ってのがあったと思うけれど、まさにそういう感じで、価値あるものが失われてしまったように捉えられて、文明の抹消は惜しいことをしたと悔やまれてしまうだろう。それは許せないんだ。だから俺は、この文明が未来永劫顧みられることがないよう、あるいは、嘲笑と侮蔑の対象となるよう、その価値を徹底的に毀損する。辱める。そのために、お前といっしょに進化した人類を創造したい」
『なぜだ』
「今の人類より遥かに優れた新人類を生み出すことが出来れば、そいつらによって、この文明は取るに足らないものと見下され、辱められるだろう?」
『ああ、そうか……』
「まずはお前に集めさせた、この生娘たちを辱める。そこからはじめる」
マイケの言に、少女たちは身を震わせる。
「そうだな、まずはそこのお前だ。お前がいい。お前の瞳は、フランによく似た萌黄色をしている」
マイケは少女たちの内の一人に歩み寄ると、その腕を掴み、強引に引く。
少女は喚き、抵抗するが、マイケに力で敵わず、その手を振りほどけぬまま、他の少女たちから引き離される。
マイケは少女を埃っぽいベッドの上に押し倒すと、自身も横になり、少女を抱きしめる。
息を荒げる。
フランの名を呼ぶ。
RIDE THE LIGHTNINGは、そんなマイケに、母フレイヤの姿を重ねていた。
マイケは少女の頭のにおいを嗅いだ。
と、マイケは脱力し、少女はマイケの拘束を解いて起き上がり、距離をとった。
マイケは横になり、硬直したまま言う。
「その娘は、俺と遺伝子の相性が良くないらしい」
マイケはベッドの上で膝を抱えて小さくなった。
少女たちはそれを見て、今が好機と、連なって部屋から出ていく。
先刻までマイケに抱かれていた少女も、他の少女に腕をひかれて出ていった。
部屋にはマイケとRIDE THE LIGHTNINGだけが残された。
と、RIDE THE LIGHTNINGのボディが光りだし、人間の姿に変態した。
その姿はフランチェスカにそっくりだった。
その姿を見て、目を見開くマイケ。
RIDE THE LIGHTNINGは纏っていた衣類を脱ぎ去ると、マイケの隣で横たわった。
目と目が合う。
マイケは、膝を解くと、RIDE THE LIGHTNINGをそっと抱き寄せ、胸元に鼻を近づけた。
鼻から息を小刻みに吸い込む。
口で息をする。
息を整え、再びRIDE THE LIGHTNINGの目を見る。
開いた口を、そのままRIDE THE LIGHTNINGの口に押し当てる。
舌を出し、RIDE THE LIGHTNINGの唇を舐めまわすと、RIDE THE LIGHTNINGは自ずから唇を解き、口腔にマイケの舌を迎え入れる。
舌と舌を絡み合わせる。
マイケはRIDE THE LIGHTNINGの両肩に手を乗せると、前に押して引き離す。
マイケは咳き込み、涙目になりながら、RIDE THE LIGHTNINGの顔を上目遣いで睨んで言う。
「オ、オンナァ……」
マイケは再度RIDE THE LIGHTNINGを抱き寄せ、濃厚な接吻をした。