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〔イリノイ州シカゴ グレゴリオ暦2061年9月22日 11:15 a.m. -6〕
初秋の空気をまとった停機場に、荒涼とした風が吹き抜ける。
出迎えの若い女性士官は、沈んだ面持ちで輸送機から降りてくる兵士らになんと声をかければいいものか考えあぐねた様子でキョロキョロとしていた。
アーノルドは、まず彼女の少将の階級章を目に留め、それからその若さに気づいて目を見開く。
戸惑いつつもデイヴの方を見る。
頷くデイヴ。
アーノルドはそれに頷き返し、女性士官に歩み寄る。
「あなたがここの責任者ですか」
「え、ええ……あ、申し遅れました。私はノア・ミズキ少将です」
「ん?」
二人は顔を見合わせた。
「ああ、私には日系の血が入っていまして。日本では女の子にもノアと名付けるそうなんです」
「なるほど、そういう」
アーノルドは、さらに彼女のその異様な階級についても問いただそうとも思った。
が、アレーテイア・クライシス以降、他の組織と比較して、ある程度その機能を保っていた軍部でさえ、連邦政府の統率力の低下によって、基地同士のつながりが弱まり、基地ごとに独自色が強まっていたし、そのような背景もあって、独自の昇格基準を設定する基地も珍しくなかった。
その点はアーノルドのいたグライムスの基地も例外ではなく、アレーテイア・クライシス初期に市民による暴動が頻発し、兵士らが疲弊していた時期には、一部階級の昇格基準を臨時に緩和したこともあった。
そうは言っても、アーノルドとしてはやはり、ノアの少将の階級はいくらなんでもやりすぎだと思うのだが……グライムスの基地からやってきた兵士たちは、今更階級の正当不当ぐらいのことに目くじらを立てやしないだろうし、なにより彼女の階級を追及することは、イリノイの基地との関係を悪化させ、グライムスの兵士たちの肩身を狭くするだけだろうと考え、口をつぐんだ。
「そんなことより……」と、デイヴ。
「そうだな。まず、我々の兵士は恐らくすでに兵士ではない。決断はこれからしてもらうつもりだが、我々としては、彼らを見捨てるような真似は極力したくはない。かといって、あなた方に迷惑をかけるわけにもいかない。そこで、兵士をやめる者に畑仕事をさせてやりたいのだが。どうだろうか」
「それは、いいお考えです。もともとイリノイではトウモロコシや大豆の生産が盛んだったのですが、今では農地の奪い合いで、人口に対して土地が有り余っている状態です。農業をしてくださるというなら、是非とも」
「それはよかった」
「もっとも、争いの影響で土地の状態はあまり良好とは言えませんが」
「それはどこでもそうです。もとが農地だったというのなら、希望が持てるというものでしょう」
「では、彼らの気持ちが固まったらお伝えください。順次、土地に割り当てていきます」
「それは助かる。ただ、決断には時間がかかるやもしれんが……」
「構いませんよ」
と、そこへ
『やあ』
インワーゲンの声でそのように発したタブレットは、モーターで自走するカートの上に固定されており、その画面にはインワーゲンの顔が映し出されていた。