[RIDE THE LIGHTNING] Chapter12 – “Electric Eye”

 同時刻、同施設のオペレーション・センターでは――基地の各所に設置された監視カメラの映像が次々と乱れては直る現象が観測されていた。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月20日 08:45 p.m. -6〕

 加えてパリティエラー検出件数が急増し、あちこちで遮断機が作動している。

「何が起こっているんだ……」明滅するモニターを見つめながら、通信士官が呟く。

 電送系のトラブルであることは明らかだ。
 だがこれは、自然発生的に起こり得る現象ではない。
 すると人為的な攻撃を受けているということになるが……手の込んだ悪戯でないのなら、目的が分からない。

 いずれも瞬間的な不具合に過ぎず、しかもなんら対応もせずとも自動的に復旧できてしまう程度のものだからだ。
 監視映像の途絶は、何かを隠すには短すぎる。
 失敗した通信も、再試行すると問題なく行えてしまう(しかもコンピュータが自動的に再送要請を行うため、ユーザーは異常を認識することすらない)。
 基地内のほとんどの電気設備は、停電に備え、供給された電力を一度バッテリーに蓄え、そこから給電するようになっているため、遮断機の作動についてもやはり影響はない。

 ならば主目的を隠すための攪乱か、あるいはなんらかの攻撃による副次的な作用か。
 だが、前者であるならやることが半端(基地中枢の送電・通信設備に干渉出来て、この程度の攪乱が精いっぱいということもあるまい)だし、後者だとして、このような現象を併発させるような攻撃も思い当たらない。

「少尉。営倉からの報告で、牢が破られたと」オペレータの一人が発言した。

「牢? あそこには小娘一人しか収容していなかったはずだろう。逃げられたなら失態だが、障害とは無関係だ。後にしろ」

「しかし、営倉の見張りが言うには、パワードスーツのようなもので格子を破壊して逃げられたと」

 通信士官は眉をひそめる。

「盗人一人を逃がすために、武装した外敵に侵入されたというのか?」

「……いえ。牢は内側から破られて、マイケ・ルイス・フォードがパワードスーツを着て脱走した?」

 オペレータの発言は、通信士官への報告というよりも、通信の繋がった営倉に確かめるようであった。

「それが小娘の名前か。パワードスーツなどと、そんなものを牢に持ち込まれたというのか。電送障害もその影響か? しかし、あり得るのか」

「報告します!」

 仏頂面で叫びながら入室したのは――シャイニング。

「なにか」

「侵入者はロボットのようでした。通常の装備では歯が立たず――」

 通信士官の問いに、シャイニングの返答はやや早口になっていた。
 そこに、オペレータが割って入る。

「先ほど、パワードスーツと思われるものが基地の敷地の外へ逃れたとの報告が」

「取り逃がしたというのか。そんな性能のパワードスーツが……」

「パワードスーツ? あれが?」シャイニングが小さく言う。

「あ、中佐!」通信士官が、シャイニングの肩越しに入室したデイヴの姿を見止める。

「どうなっている」と、デイヴ。

「中佐が捕らえた小娘が、パワードスーツを着て脱走したらしく――」

「私は先刻まで彼女といたが……」

「口説いていたので?」

「まさか。ああ、私じゃないぞ。逃がしたのは」

「そうは疑っては下りません。中佐は奥様と娘さんを大事にしておられる」

「そうだ。私が小娘一人に絆されて、立場を危うくするようなことはない。追跡はしているか」

「それが……兵士の脚では追いつけず、レーダーにもそれらしいものは……」

「見失ったということか」

「ええ」

「ならば――」

「ならば上に判断を仰ぐ。捜索は続ける」そう言って現れたのは、将軍の階級章をしたアーノルドであった。

 アーノルドは連れていた白衣の老人を、「博士はここで待っていてください」と司令室の端に立たせ、デイヴらのいる方へと歩みを進める。

「上? ペンタゴンに?」

「当然だろう。得体の知れない兵器が米軍の基地施設内に持ち込まれ、逃げられた。国防上、重大な事案だ」

「そりゃあ……」

「それで、パワードスーツとはどんなだ。写真はないのか」

「屋内の監視映像はどれも先ほどの異常で……唯一、屋上からロングショットで撮影されたものが――」

 オペレータがモニターに表示した定点カメラの映像には、画面の端から端へと、一瞬のうちに移動する何かが捉えられていた。
 フレームを切り取り、電子ズームで拡大する――が、その姿はハッキリしない。

「これだけか」と、アーノルドが溢す。

「私もカメラを構えてはみたのですが、なにしろ動きが速すぎて……しかし、この目で見ました」と、シャイニング。

「そうか。どんなだった?」

「ちょっと待ってください。描いた方が早い」

 シャイニングはそう言うと、紙とペンをとり、絵を描き始める。

「絵の心得があるのか」デイヴはシャイニングの手元を覗き込みながら、感心そうに問う。

「美大の出です」と、シャイニング。

「ほう」アーノルドは腕組みをする。

「描けました」

「見せてみろ」

 デイヴが卓上のコピー用紙を取り上げると、紙の上にのっていた数本のペンが床にまき散らされるようにして転がり落ちる。
 慌ててそれを拾おうとするシャイニングをよそに、デイヴは絵をジッと見つめる。
 アーノルドがデイヴの傍に寄ると、デイヴはアーノルドにも見えるようにと紙を持っていた腕を少し横へ動かす。
 通信士官もそこへ加わろうとするが、ぴょんぴょこ跳ねても背の高い二人の肩が邪魔でよく見えない。

 描かれていた桃色の甲冑の姿に、アーノルドは首を傾げる。

 デイヴは言う。

「派手なデザインだ。これが君の芸術性というやつなら、もう少しこだわりを抑えてもらえると嬉しいのだが」

「いえ、脚色しているつもりはありません。見たままを描きました」と、シャイニング。

 アーノルドは少し考えた後、

「そうか……わかった。ならばこの絵をもとに、兵士に配る手配書を作成しよう。コピーをとれ。それから曹長」

「はい」

「私の息子はトランスフォーマーのおもちゃが好きでね。この絵を子供が好きそうな感じに仕上げてくれ。ボーナスをやろう」

 シャイニングは困惑した様子でデイヴの方を見る。
 デイヴはシャイニングに微笑みかける。

「了解しました!」シャイニングは敬礼し、勢いよく返事をする。

「何事です」

 アーノルドが待たせていた頭頂部が寂れ、白い髭を蓄えた白衣の老人が、痺れを切らして会話に加わる。
 老人の姿に、通信士官は目を見開く。

「だ、大統領!?」老人は、配信で度々目にする現合衆国大統領マイケル・インワーゲンその人に見える。

「いや、軍の兵器開発に協力してくださっている、インワーゲン博士だ。心配いりません。訓練のようなものです」

「大統領は私の双子の兄でね。そう、訓練ですか」

 インワーゲンはひとまず納得したようで、邪魔にならぬよう士官たちから離れんと回れ右をする。

 目を丸くし、立ち尽くす通信士官に、デイヴが横から言う。「知らなかったか? 有名だぞ」

「コピー終わりました。ええと」

 オペレータは、シャイニングのスケッチを片手にきょろきょろする。

「ああ、それは曹長に返してやってくれ」

「はい。シャイニング、これ」

「どうも」

 インワーゲンは、視界の脇に、今まさにシャイニングに手渡されんとするスケッチを見止める。

「む? そ、それはっ!」

「なんです」

「寄越しなさい!」

 インワーゲンはオペレータからスケッチをぶんどり、顔にグイっと近づけて凝視する。
 身を震わし、目を見開く。
 そして呟く。

「……RIDE THE LIGHTNING」

「ご存じなのですか?」アーノルドが問う。

「あ、ああ……」

「では博士。そいつは一体なんなんです」と、デイヴ。

「始まる……」

「なにが」

「最後の審判だ」

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