[RIDE THE LIGHTNING] Chapter20
「意外ですね」
兵士たちが慌ただしくする中、デイヴはアーノルドにそう言った。
〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月22日 09:32 a.m. -6〕
「なにがだ」アーノルドのその返しには、どこか苛立ちが混じっていた。
互いに向き合わぬまま、会話は続く。
「てっきり、あなたはこういう命令に対しては毅然としてNOと返すものかと」
「私がペンタゴンの命令に従わない不届き者とでも?」
「しかし現大統領はすでに任期を満了し、まともに選挙が出来ない今、臨時的にその地位にあるだけです」
「ああ。そのうえ、政敵の悉くがAletheia漬けになったもんだから、黒い噂だってあるな」
「あのような命令を下す正当な権限などないと、そうお思いなのでしょう?」
「……そうだとして、今の私にはこれが精一杯だよ」アーノルドは、投げやりに答える。
「軍人としてはそうでしょう。ですが――」
「君までもそのようなことを言うとはな……それで? 陸軍の将軍でない私になら、一体なにが出来るというのだね?」
「それは分かりません」
迷いのない返事に、アーノルドは思わず顔を上げる。
デイヴのケロッとした顔。
アーノルドはため息をつく。
「自分の判断を過信せず、専門家の考えを尊重する。それは君の良いところだし、指揮官として優れた資質だとも思うよ」
「ありがとうございます」
「だが時に、相手の身になって考えるということも大事だと、私は思うがね」
「はぁ」
納得のいかない様子のデイヴ。
「あの」通信士官の男が二人に声をかける。
「仕事が終わったのか」と、デイヴ。
「いえ」
「なら仕事に戻れ。時間がないんだ」
「なんなんです。この基地を放棄する意味って」
士官は、アーノルドの命令を無視して問うた。
デイヴは言う。
「今話すべきではないことだ」
「あなた方にはお分かりなのでしょう。しかし我々には分からない。これは士気にかかわります。この任務は戦闘ではありませんが、これほどの大仕事に疑念は余計です」
アーノルドとデイヴに士官たちの視線が集まる。
アーノルドはため息をつき、口を開く。
「分かった」
「将軍」デイヴは咎めるように発する。
作戦について士官らにどのように共有するかは、アーノルドとデイヴが二人で話し合って決めたことだった。
その際、詳細を伏せることによる士気低下の可能性を提言したのはむしろデイヴの方であり、それに対して、説明することによる混乱こそ避けられるべきと主張したのがアーノルドだった。
議論の末、デイヴはアーノルドの意見に納得し、受け入れた。
デイヴは、プロフェッショナルな議論の成果に満足していた。
アーノルドは、デイヴに構わず士官に応える。
「君の言うとおりだ。これでは仕事も手につかないだろう。ただし、これはここにいる君たちだけに言うことだ。基地の全員に伝えることは作戦遂行の妨げとなりうる。そういう判断だ。分かってほしい」
「分かります」
「いいんですか?」デイヴがアーノルドに念押して確認する。
「この方がすっきりする」
アーノルドはデイヴにそう返すと、士官らに向けてさらに続ける。
「お前たちも知っての通り、明日、このアイオワの地に存在するとされる反政府組織の拠点に対し、掃討作戦が実施される。にもかかわらず、当基地はその作戦に参加しないどころか、基地を放棄し、イリノイの基地に合流せよというのがペンタゴンからの指令だ――これは、退避命令なのだと考えられる」
「つまり大統領は、各地の反政府組織に対する見せしめとして、ここを核で焼こうというわけだ」
「核!? まさか」
「当基地は、管轄域の各地に兵を駐屯させている。命令には――その一部を引き上げさせ、彼らと共に移動しろ――ともあるが……彼らの配置をまとめたものがこれだ」
デイヴはそう言うと、モニタにマップを表示する。
「5万ヤードに及ぶ撤収区域。レジスタンスの拠点があるとされる、この街の南にB83核弾頭を投下すれば、放射性降下物の降下予測範囲は丁度このぐらいになる。それに、退去指示のない兵士らにも、出来る限りの水を蓄えさせよとの指示もあった」
「水?」
「おそらく、河川の放射能汚染を見据えてのことだろう」
「今言ったことは我々の推測に過ぎない。が、基地や管轄区域からの一斉退去という異常な命令。それとペンタゴンに問い合わせた際の歯切れの悪さからして……ほぼ間違いないと見ていいだろうと思う」
「……しかし、なんでよりにもよってここなんです」
「そうです。レジスタンスの拠点なら他所にだっていくらでも……」
「確認されている他の拠点の所在地と違って、アイオワの地形は平坦だ。核の威力を殺すような遮蔽物もなく、死の灰の降下予測もしやすい。核で汚染されて困るような資源もない。見せしめには打ってつけなんだろう」
「だとして、なぜペンタゴンははっきりした連絡を寄越さないんです」
「わからん。が、秘密作戦にしては指示があからさま過ぎる。察してくれと言わんばかりだ。はっきりしたことは分からんが……上も混乱しているということだろう」
「そんな……すぐに市民を避難させないと!」と、シャイニングが声を上げる。
「駄目だ。そういうことはしてはならないというのも、命令の内だ」
「それがなんです! 我々兵士の使命は、市民を守ること。国土を核で焼くことでもなければ、市民を見殺しにすることでもない!」
そう言い放つと、シャイニングは周りの士官たちを突き飛ばしながら司令室を飛び出していった。
「追え! 彼に行かせるな!」
アーノルドの指示で、扉の脇に立っていたMPがシャイニングの後を追って駆けだす。
司令室が静寂に包まれた。
「あの」一人の士官が小さく手を挙げている。
「なにか」
「核攻撃が予定されている、これは仰る通りなのでしょう。しかし、この前の騒動から昨日の今日でというのは、気になります」
アーノルドは顎に手をやり、やや俯きながらに応える。
「どうなのだろうな。マルムスティーンを名乗る通報。それに、基地に現れたマシーン。いずれも警戒すべき脅威であることには違いないが……市民の巻き添えや環境破壊に目を瞑ってでも対処せねばならないほどのものではないように思うが」
「マシーンが文明を破壊するという話。あれを大統領が真に受けているということは?」
「分からん。しかし、今はそんなことを考えても仕方がない。支度を急ごう」
