[RIDE THE LIGHTNING] Chapter12 – “Electric Eye”

 同時刻、軍施設の中央指令室にて。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月20日 08:45 p.m. -6〕

「あちこちの監視映像が乱れては治る。通信も似たような具合に途切れる……要は通信障害か?」

 ジェフリー・ドナー少尉(ニックネームはハンニバル)の呟きに、オペレータの一人が反応する。

「しかし、基幹ネットワークまでもがそうなるというのは――」

「ただのトラブルでは済まない、重大事案といえる。外敵からの攻撃も想定せねばならん」

「とはいえ、ファイアウォールはなんとも……」

「少尉。営倉の見張りが、牢が破られたと」

 クラリス・ラミレス(服は着ていないが、階級は軍曹。ニックネームはカラテ)が発言。

「牢? あそこには小娘一人しか収容していなかったはずだろう。逃げられたというなら失態だが、通信障害とは無関係だ。後にしろ」

「しかし、その見張りが言うには、パワードスーツのようなもので格子を破壊して逃げられたと」

 ハンニバルは眉をひそめる。

「なに? 盗人一人を逃がすために、武装した外敵に侵入されたというのか?」

「……いえ。牢は内側から破られて、マイケ・ルイス・フォードがパワードスーツを着て脱走した?」

 カラテの発言は、ハンニバルへの報告というよりも、通信の繋がった営倉に確かめるようであった。

「それが小娘の名前か。パワードスーツなどと、そんなものを牢に持ち込まれたというのか。通信障害もその影響か? しかし、あり得るのか」

「報告します!」

 仏頂面で叫びながら入室したのは、シャイニング。

「なにか」

「侵入者はロボットのようでした。強度、スピード、パワー、どれも凄まじく、通常の装備では歯が立たず――」

 ハンニバルの問いに、シャイニングの返答はやや早口になっていた。
 そこに、カラテが割って入る。

「少尉。先ほど、例のパワードスーツと思われるものが基地の敷地の外へ逃れたとの報告が」

「取り逃がしたというのか。そんな性能のパワードスーツが……」

「パワードスーツ? あれが?」と、シャイニング。

「ん、違うのか」

「いえ、確かに人のようなシルエットはしていましたが……」

「あ、中佐!」ハンニバルは、シャイニングの肩越しに入室したデイヴの姿を見止める。

「どうなっている」と、デイヴ。

「それが、中佐が捕らえた小娘が、パワードスーツを着て脱走したようで。それにあちこちで通信障害が」

「私は先刻まで彼女といたが……」

「口説いていたので?」

「まさか。ああ、私じゃないぞ。逃がしたのは」

「そうは疑っては下りません。中佐は奥様と娘さんを大事にしておられる」

「そうだ。私が小娘一人に絆されて、立場を危うくするようなことはない。追跡はしているか」

「それが……兵士の脚では追いつけず、レーダーにもそれらしいものは……」

「そうか。パワードスーツと言ったか?」

「ええ。出所はわかりませんが……」

 デイヴは少し考えた後、口を開く。

「そうか。ならば、やはり私は怪しいな。取り調べを受けよう。その前に、家族に電話をさせてもらえるとありがたいのだが……」

「そんな、そこまでなさらずとも」

「そうだぞ中佐。君はもっと我々を信頼しろ」そう言って現れたのは、将軍の階級章をしたアーノルドであった。

 アーノルドは連れていた白衣の老人を、「博士はここで待っていてください」と司令室の端に立たせ、デイヴらのいる方へと歩みを進める。

「リスペクトしているつもりです」と、デイヴ。

「君の言うリスペクトと私の言う信頼は違うものだ」

「ええ」アーノルドの言に、デイヴはただそう返すのみであった。

「とはいえ、中佐の言い分ももっともだ。基地にネズミが紛れ込んでいるなら、何としてでも炙り出さねばならないだろう。それと、通信障害の影響も徹底的に調査せねばならん」

「はっ」

「それで、パワードスーツというのはどんな形状をしていた。写真はないのか」アーノルドは問う。

「監視カメラは先ほどの異常で……」

「まったく映っていないのか」

「私もカメラを構えてはみたのですが、なにしろ動きが速すぎて……しかし、この目で見ました」と、シャイニング。

「しかし、パワードスーツの似顔絵ができるやつなどおらんぞ」

「確かに、言葉で聞いた特徴を描きだすのなら難しいでしょうが……」

 シャイニングがそう言いかけると、ハンニバルは食いつくようにしてそれを遮り、

「絵の心得があるのか」と、デスクの前に身を乗り出して聞く。

「美大の出です」

 いたって真面目に答えるシャイニングに、デイヴは思わず笑みをこぼす。

「珍しいな。わかった、紙とペンをよこしてやれ」と、デイヴ。

「逃亡者の追跡は……」

 ハンニバルの問いに、アーノルドが答える。

「いや、いい。この基地から単騎で離脱できるほどの性能のパワードスーツ。そんなものの相手をするとなれば、大部隊を動かすか、タンクのひとつも持ち出すかせにゃならんだろう。私としては、極力市民の不安を煽りたくはない。一度上に判断を仰いで、動くとしたらそれからだ」

「上? ペンタゴンに?」

「すると将軍は、これが他国からの攻撃であると」

「可能性は、考えねばならん。描けたか、美大生」

 アーノルドはシャイニングの肩にそっと左の手を載せて聞く。

「卒業済みです。描けました」

「見せてみろ」

 デイヴが卓上のコピー用紙を取り上げると、紙の上にのっていた数本のペンが床にまき散らされるようにして転がり落ちる。
 慌ててそれを拾おうとするシャイニングをよそに、デイヴは絵をジッと見つめる。
 アーノルドがデイヴの傍に寄ると、デイヴはアーノルドにも見えるようにと紙を持っていた腕を少し横へ動かす。
 ハンニバルもそこへ加わろうとするが、ぴょんぴょこ跳ねても背の高い二人の肩が邪魔でよく見えない。

 描かれていた桃色の甲冑の姿に、アーノルドは首を傾げる。

 デイヴは言う。

「派手なデザインだ。これが君の芸術性というやつなら、もう少しこだわりを抑えてもらえると嬉しいのだが」

「いえ、脚色しているつもりはありません。見たままを描きました」と、シャイニング。

「そうか。では曹長、もう一つ質問がある」アーノルドは言う。

「ええ、なんでしょう」

「君はこいつをピンクのペンで描いているが、この色づかいは正確か?」

「ありものの画材で描きましたから、100%正確とまでは……」

「赤では無かったか?」

「赤? いえ、赤かピンクかで言えば、間違いなくピンクでした。ほら、ちょうどこれぐらいの」

 そう言って、シャイニングはデスクに転がっていたピンクのポストイットを掴んで掲げた。
 アーノルドは少し考えた後、

「うん、わかった。ならばこの絵をもとに、兵士に配る手配書を作成しよう。ラミレス軍曹、コピーをとれ。それから曹長」

「はい」

「私の息子はトランスフォーマーのおもちゃが好きでね。この絵を子供が好きそうな感じに仕上げてくれ。ボーナスをやろう」

 シャイニングは困惑した様子でデイヴの方を見る。
 デイヴはシャイニングに微笑みかける。

「了解しました!」シャイニングは敬礼し、勢いよく返事をする。

「何事です」

 アーノルドが待たせていた頭頂部が寂れ、白い髭を蓄えた白衣の老人が、痺れを切らして会話に加わる。

「そちらの方は?」デイヴはアーノルドに聞く。

「軍の兵器開発に協力してくださっている、インワーゲン博士だ。心配いりません。訓練のようなものです」

「そうですか」

 インワーゲンはひとまず納得したようで、邪魔にならぬよう士官たちから離れんと回れ右をする。

「コピー終わりました。ええと」

 カラテは、シャイニングのスケッチを片手にきょろきょろする。

「ああ、それは曹長に返してやってくれ」

「はい。シャイニング、これ」

「どうも」

 インワーゲンは、視界の脇に、今まさにカラテからシャイニングに手渡されんとするスケッチを見止める。

「む? そ、それはっ!」

「なんです」

「寄越しなさい!」

 インワーゲンはカラテからスケッチをぶんどり、顔にグイっと近づけて凝視する。
 身を震わし、目を見開く。
 そして呟く。

「……RIDE THE LIGHTNING」

「ご存じなのですか?」アーノルドが問う。

「あ、ああ……」

「では博士。そいつは一体なんなんです」と、デイヴ。

「始まる……」

「なにが」

「最後の審判だ」

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