[RIDE THE LIGHTNING] Chapter07

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 デイヴ・クラプトンは、寿司屋の駐車場で上司からの電話を受けた。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月18日 10:07 p.m. -6〕

「准将、仕事の連絡ならまた後日に……え? ハロラン? ……ああ、シャイニングのことですか。ええ、いますよ。ここに」

 デイヴは、一緒にいた部下の男に目をやった。

 シャイニングというのは彼――レナード・ハロラン曹長のニックネームである。
 これは、彼の笑顔が映画シャイニングでジャック・ニコルソン演ずるジャック・トランスが狂気に囚われて見せる笑顔によく似ていたことに由来する。
 はじめはもっと直接的なニックネームが提案されたのだが、生真面目な彼はそれを拒んだため、このようになった。
 彼がシャイニングというニックネームを受け入れているのは、由来となった映画の存在を知らず、輝きという言葉の意味そのままを気に入っているからである。

「出資者の屋敷に盗人? そんなの……え、なんです。ジョーイ・マルムスティーン? 実在したんですか」

「マルムスティーン!?」声を荒げるシャイニング。

『何を寝ぼけたことを言っとるんだね!』スピーカーからも上司の怒号。

「ああ、いえ。冗談ですよ」

 デイヴには、今日の米国の凋落をAletheiaのリリースによるものとする国内(特に軍部)において支配的な見解への疑念があった。

 権力者の多くが装置に囚われたというのは確かに一大事件だ。
 が、その程度のことでかつての超大国の秩序がこれほどまでに崩壊するというのは合点がいかない。
 それに、Aletheiaのような明らかな欠陥製品がリリースされ、警戒心の強い権力者たちの多くにすんなりと行き届いたというのも不自然な話である。
 そんなわけで、デイヴは、米国の崩壊とAlehteiaを巡る一連の騒動の裏に陰謀めいた力の存在を予感せざるを得なかった。

 ましてジョーイ・マルムスティーンなどという、Aletheiaの開発者とはいってもたかだか一介の研究者に過ぎない男を諸悪の根源かのように語る論調は、デイヴにはこの上なく胡散臭く感じられ、事の真相から大衆の意識を逸らすために、彼を体のいいスケープゴートに仕立てたものであるか、そもそも彼の存在自体をでっち上げたものではないかとさえ思っていた。

『冗談のネタにしていいような輩ではないのだぞ!』

 だからこそデイヴは、相応の地位をもつ自身の上司が、そのような論調を真に受けていることに驚いた。

「はぁ……申し訳ございません。それで、我々にそいつを捕らえに行けと。今から寿司を食うところなのですが」

『君は事態の重大さが……まあいい。寿司ソウル(店名)だろ? だったらここ(基地)からよりずっと近い』

 デイヴは、車のドアを開けながら返答する。

「分かりました。残業代は高くつきますよ」

 座席に座り、シートベルトをする。

『もちろんだ。マルムスティーンを捕まえれば昇給とてさせてやる。階級も上がるだろう』

 エンジンをかける。

「それはどうも。車両無線に切り替えます」

「あの……」と、シャイニングはソワソワした様子で言う。

 デイヴはシャイニングの顔を見ながら、助手席を繰り返し指さす。
 シャイニングは、サッと助手席に座る。

『ハロラン曹長か?』

「ええ。マルムスティーン……ジョーイ・マルムスティーンが現れたんですね!」

 シャイニングがシートベルトをして、ドアを閉めると同時に、車が発進する。

 背の高い軍服の男は、寿司屋の駐車場で上司からの電話を受けた。

「准将、仕事の連絡ならまた後日に……え? ハロラン? ……ああ、シャイニングのことですか。ええ、いますよ。ここに」

 背の高い軍服の男は、一緒にいた軍人ハロランに目をやった。

「出資者の屋敷に盗人? そんなの……え、なんです。ジョーイ・マルムスティーン? 実在したんですか」

「マルムスティーン!?」ハロランが声を荒げる。

『何を寝ぼけたことを言っとるんだね!』スピーカーからも上司の怒号。

「ああ、いえ。冗談ですよ」

『冗談のネタにしていいような輩ではないのだぞ!』

「はぁ……申し訳ございません。それで、我々にそいつを捕らえに行けと。今から寿司を食うところなのですが」

『君は事態の重大さが……まあいい。寿司ソウルだろ? だったらここ(基地)からよりずっと近い』

 背の高い軍服の男は、車のドアを開けながら返答する。

「分かりました。残業代は高くつきますよ」

 座席に座り、シートベルトをする。

『もちろんだ。マルムスティーンを捕まえれば昇給とてさせてやる。階級も上がるだろう』

 エンジンをかける。

「それはどうも。車両無線に切り替えます」

「あの……」と、ハロランがソワソワした様子で言う。

 背の高い軍服の男はハロランの顔を見ながら、助手席を繰り返し指さす。
 ハロランは、サッと助手席に座る。

『ハロラン曹長か?』

「ええ。マルムスティーン……ジョーイ・マルムスティーンが現れたんですね!」

 ハロランがシートベルトをして、ドアを閉めると同時に、車が発進する。

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