[RIDE THE LIGHTNING] Chapter07

 デイヴ・クラプトンは、寿司屋の駐車場で上司からの電話を受けた。

〔アイオワ州グライムス グレゴリオ暦2061年9月18日 10:07 p.m. -6〕

「将軍、仕事の連絡ならまた後日に……え? ハロラン? ……ああ、シャイニングのことですか。ええ、いますよ。ここに」

 デイヴは、一緒にいた部下の男に目をやった。

 シャイニングというのは彼――レナード・ハロラン曹長のニックネームであった。

「出資者の屋敷に盗人? そんなの……」

 陸軍が警察を兼ねるようになったといっても、軍のキャパがその役割に見合うだけ拡充されたわけではない。
 そのため現在陸軍は、基本的に殺人を含む小規模な犯罪はほとんど関知せず、大規模な暴動や重大なテロ行為にのみ対応するというスタンスをとっている。

 そうは言っても、軍のスポンサーに関わる通報であるなら対応するのが常だが……屋敷は街の外、家主はAletheiaの虜にされており、投資額は過去の契約に従って自動的に更新されているに過ぎないという。
 こういうケースは珍しくない。
 そしてこのような場合、家主の身に何が起ころうと、軍が損害を被ることはまずない(フェンスの外の、Aletheiaに囚われた親族の安否をいちいち確認しに行く者は少なく、たとえ安否が知れたところで、軍への出資を打ち切ることのデメリットの方が大きいため)。

 つまり、間違ってもデイヴのような上級士官が、退勤後にいちいち対応するような事案ではないのである。
 彼のかったるそうな反応は、当然といえば当然だった。

「え、なんです。ジョーイ・マルムスティーン? 実在したんですか」

 デイヴは首を傾げつつ、電話口の上司に聞き返す。と、

「マルムスティーン!?」デイヴの受け答えを横で聞いていたシャイニングが、突如として声を荒げる。

 ――ジョーイ・マルムスティーン

 それは、誰もが知る名前であった。
 Aletheiaを開発者であり、バイソン社と並んで、アレーテイア・クライシスの首謀者とも目されるその男は、今なお社会的制裁を受けることなく、他国への亡命とAletheiaに関する技術提供を繰り返し、類似品の普及に加担しているとされる。

『何を寝ぼけたことを言っとるんだね!』スピーカーから上司の怒号。

「ああ、いえ。冗談ですよ」

 デイヴは上司を適当にあしらいつつ、思考を巡らせる。

 ――デイヴには、今日の米国の凋落をAletheiaのリリースによるものとする国内(特に軍部)において支配的な見解への疑念があった。

 権力者の多くが装置に囚われたというのは確かに一大事件だ。
 が、その程度のことでかつての超大国の秩序がこれほどまでに崩壊するというのは合点がいかない。
 それに、Aletheiaのような明らかな欠陥製品がリリースされ、警戒心の強い権力者たちの多くにすんなりと行き届いたというのも不自然な話である。
 そんなわけで、デイヴは、米国の崩壊とAlehteiaを巡る一連の騒動の裏に陰謀めいた力の存在を予感せざるを得なかった。

 ましてジョーイ・マルムスティーンなどという、Aletheiaの開発者とはいってもたかだか一介の研究者に過ぎない男を諸悪の根源かのように語る論調は、デイヴにはこの上なく胡散臭く感じられ、事の真相から大衆の意識を逸らすために、彼を体のいいスケープゴートに仕立てたものであるか、そもそも彼の存在自体をでっち上げたものではないかとさえ思っていた。

『冗談のネタにしていいような輩ではないのだぞ!』

 だからこそデイヴは、相応の地位をもつ自身の上司が、そのような論調を真に受けていることに驚いた。

「はぁ……申し訳ございません。それで? 通報者がマルムスティーンと名乗っているから、我々にそいつを捕らえに行けと。今から寿司を食うところなのですが」

『君は事態の重大さが……まあいい。寿司ソウル(店名)だろ? だったらここ(基地)からよりずっと近い』

 デイヴは、車のドアを開けながら返答する。

「分かりました。残業代は高くつきますよ」

 座席に座り、シートベルトをする。

『もちろんだ。マルムスティーンを捕まえれば昇給とてさせてやる。階級も上がるだろう』

 エンジンをかける。

「それはどうも。車両無線に切り替えます」

「あの……」と、シャイニングはソワソワした様子で言う。

 デイヴはシャイニングの顔を見ながら、助手席を繰り返し指さす。
 シャイニングは、サッと助手席に座る。

『ハロラン曹長か?』

「ええ。マルムスティーン……ジョーイ・マルムスティーンが現れたんですね!」

 シャイニングがシートベルトをして、ドアを閉めると同時に、車が発進する。

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